salt0810の日記

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『さよなら、韓流』でわが身を振り返る

北原みのりさん著『さよなら、韓流』という本を読みました。

 

未読の方のために本書を簡単にご紹介すると、反韓デモを「男の嫉妬からくるもの」として批判した結果ぼっこぼこにバッシングされた著者が、「なぜ日本の女はこんなにも韓流にはまるのか?」「なぜ日本の男は韓流女をこんなにも叩くのか?」という問いを突き詰めていくという、いち韓流女のドキュメントになっています。

 

こう書いてしまうと気が重い感じになってしまいますが、そこは著者も同じように感じていたようです。「ひとりではつらいから」という理由で8人の女たち(フランス映画でそんなんあったな)を巻き込み、対談を繰り広げていきます。

 

この対談相手というのが信田さよ子さん、澁谷知美さん、西森路代さん、山下英愛さん、少年アヤちゃん、韓東賢さん、牧野江里さん、上野千鶴子さんという錚々たるメンバーで、「なんであなたはそう思うの?」「それはなぜなの?」とツッコミが容赦なく、さながら8人の禅師を訪ね歩く禅問答の様相を呈していきます。

 

ここで普段ですとつい我々韓流ファンというものは「もはや韓流という枠を超えて…」などと言って一般読者に広げようという努力をしてしまうところですが、せっかく韓流という現象をここまで掘り下げた力作、韓流から焦点をそらすことなく受け止めたいなと。自分もいち韓流ファンとして、また韓流業界の末席に身を置く者として、韓流禅問答をしながら来し方を振り返りつつ、本書で心に残った箇所に触れていきたいと思います。

 

まず私がそもそものきっかけである東方神起にはまったのはK-POPブーム前夜の2008年。車のCMのタイアップ曲として使われていた「Purple Line」をきっかけに東方神起を知ることになりました。この曲を最初に聴いたときにはてっきり洋楽だと思っていたのですが、CDショップには「J-POP」として並べられていたのが東方神起でした。ちなみに、洋楽ばかり聴いていた自分が「J-POP」のCDを買ったのは、東方神起が最初でした。

 

この「J-POP売り」というのがクセモノで、紅白に一組も韓国勢が出演せず、地上波の音楽番組にも出るのが難しい現状では、「東方神起はJ-POPなんだから他のK-POPと一緒にしないで」という悲痛な叫びが東方神起のファンからは良く聞かれます。ここで疑問に思うのは、「では、東方神起がK-POPだとしたら、日本のTV番組に出られないのは仕方のないことなのか?」「J-POPであることはK-POPであることよりもそんなに偉いことなのか?」という点なのです。

 

このモヤモヤとした気持ちの正体を「植民地時代からの優劣関係の記憶」としてずばり言い当てているのが上野千鶴子御大です。ヨン様ブーム真っ只中に日本デビューした東方神起を、中高年向けの韓流と差別化するべく「J-POP」として売り出したのは、たしかに売り手側の戦略だったかもしれません。でもそれはやはり、「日本語を覚えてJ-POPを歌うなんて偉いから認めてやるよ、褒めて遣わす」という上から目線が買い手側になければ成立しなかった戦略だとも思うのです。私自身は東方神起の日本曲は大好きですし、むしろ彼らの日本曲に出会って初めて日本語詞というものを丁寧に聴くようになったのですが、それでも「東方神起はJ-POPなんだから…」という言葉を目にするたび、耳にするたびに「これ私が韓国人だったらこんなふうに言われてうれしいのかな」といまでも時々カスミアッパなのです。

 

そして私が仕事で韓流に関わり始めたのは2010年の春頃、少女時代の日本上陸とともに新・韓流ブームが幕を開けた時期でした。当時、新・韓流ブームの枕言葉といえば「もはやヨン様とかの韓流じゃなくて…」でした。韓流最大の功労者になんたる非礼、と冬ソナ10周年のいま、改めて思わずにはいられません。

 

それまで主にハリウッド映画を担当していた自分がいきなり韓流担当になった理由といえば、東方神起のファンだったから、というただその一点でした。韓流とかよくわかんないオジさまたちがとりあえず社内の韓流好きそうな女性に仕事を投げる光景が、きっと日本のあちこちで見られたことでしょう。韓流によって女性が新たな仕事を得ていく流れや、韓流ファンがアジアに目を向けだす過程については西森路代さんとの対談部分で触れられています。

 

そうこうするうちにK-POPブームが一大ムーブメントとなり、気づけばどの会社を訪問しても必ず「うちにもK-POP好きなのがいるんだよね、今度紹介するよ」などと声をかけられるようになり、韓流女子会が日夜開かれ、なんの地下組織だというくらい、韓流好きのネットワークは広がっていきました。

 

そして現在。李大統領の竹島上陸をきっかけに日韓関係は冷え込み、新・韓流ブームは一気に終息へと向かいました。もともと固定ファンのいるジャンルですので韓流自体はなくなりませんが、韓流の聖地・新大久保の人通りは減り、地上波からは次々と韓流が姿を消し、そして排外デモが横行するようになりました。

 

私自身は相変わらずK-POPもドラマも楽しんでいますし、韓流関係の仕事もぽつぽつとありますし、韓流きっかけで築かれたネットワークはいまでも健在です。それでも個人的にちょっと残念なことがあります。それはK-POPとドラマ以外の「韓流」についてです。

 

 去年の半ばごろから、エンタメのジャンルではミュージカルやコミックなど、エンタメ以外ではファッション、コスメ、食品、スマホアプリなどが次々と日本に上陸し、韓流のネクストステージが始まろうとしていました。K-POPアイドルたちは、いわばその切り込み隊長だったといえるかもしれません。が、いよいよこれからというときになって、肝心のスターマーケティングができない状況になっているんですね。

 

 この「韓国製品」というものに関連して、興味深い話がされているのが信田さよ子さん、澁谷知美さんのパートです。「海外でAppleとサムソンがいい勝負をし、ソニーが凋落していく姿はどこか小気味いい。これは日本の男社会に対する、韓国を使った代理復讐なのではないか」ということが語られています。ということで、これから日本に進出しようとしているスマートフォン、スマートTV関連の韓国企業の皆さんにとっては、本書は必読の書なのではないかとw

 

ともあれ、この本をきっかけに、ここ3年ほどの韓流生活(東方神起ファン歴はもうちょっと長いけど)を一旦棚卸できたような気がします。あらためて「こんにちは、韓流」という気分です。

さよなら、韓流

さよなら、韓流